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持久力アスリートは、糖質制限をすると脂肪燃焼率が抜群になる

持久力アスリートは、糖質制限をすると脂肪燃焼率が抜群になる

炭水化物をほとんど食べない持久力スポーツのトップアスリートは、最大負荷運動および長時間のエクササイズ時に、炭水化物を多く摂取するアスリートと比較すると、2倍以上の脂肪を燃焼することが新しい研究で発見された。これは、このような条件下で行われた研究で発見された中でもっとも高い脂肪燃焼率である。

この研究は、普段から炭水化物をほとんど摂取しないトップアスリートに対して初めて行われました。対象となったのは、極限まで持久力を要求される競技、50キロ(31マイル)あるいはそれ以上の距離のレースをトップで走る21歳から45歳のランナー20名です。
「低炭水化物食のアスリート達の脂肪燃焼率は、驚くべきものだ」と、オハイオ州立大学の人間科学の教授であり今回の主任研究者であるジェフ・ヴォレク教授は言っています。「トレッドミルで3時間ランニングをした際、ピーク時の彼らの脂肪燃焼率は、炭水化物を多く摂取しているアスリートと比べて劇的に大きい」

「これは、スポーツ栄養における真のパラダイム・シフトだ。私はこの語を簡単には使わないのだが」とヴォレク教授は述べています。「我々はすべてを逆に理解していたのかもしれない。そして、過去40年間のあいだ、アスリートたちに炭水化物をたくさん食べるよう勧めてきたことなどすべてを、再調査する必要があるかもしれない。これは明らかに、我々が以前考えていたように単純なものではない」

10人のアスリートは、低炭水化物食として、10パーセントの炭水化物、19パーセントのタンパク質、70パーセントの脂肪分という構成比の食生活を送りました。対して、高炭水化物食のアスリートは、59パーセントの炭水化物、14パーセントのタンパク質、25パーセントが脂肪分という、カロリーの半分以上が炭水化物という食生活を送りました。

この試験に参加したアスリートはそれ以外の点では、すべて似通った条件でした。スポーツのエリートレベル、年齢、パフォーマンス、トレーニング歴、最大酸素容量も同様です。ヴォレク教授は「彼らは全員、言ってみれば同じエンジンを持っているようなものだ」と言っています。
研究者たちは試験中、炭水化物燃焼率および脂肪燃焼率を求める最大酸素摂取量を決めるため、アスリートのガス交換量を何度も計測しました。
結果、低炭水化物食のランナーは、低炭水化物食アスリートより平均して2~3倍の体脂肪燃焼率を示しました。前者が1分間に1.5グラムの脂肪を燃焼したのに対し、後者は0.67グラムでした。この研究は、オンラインのMetabolism-Clinical and Experimental誌上で発表されました。

ヴォレクは過去何年ものあいだ、低炭水化物食、特にケトン食(療法)について、中でも肥満と糖尿病との関連の研究をしており、その食事が身体パフォーマンスや回復の増大にどうつながるのか特に関心をもっていました。ケトン食は、炭水化物の摂取を減らすことにより、エネルギー源として体に蓄積された脂肪分を燃やす方法です。炭水化物を減らして脂肪分の摂取を増やすと、脂肪分がケトンに変換されます。ケトンは、グルコースの代替物として体中の細胞、特に脳細胞に使用される分子です。

人体がケトン食に完全に適応するには数週間あるいはそれ以上かかるので、この実験での低炭水化物食のグループには、最低6カ月間は炭水化物を制限しているアスリートのみを実験対象としました。彼らのケトン食実施期間は平均して20カ月でした。
「この実験のゴールは、標準化した運動負荷テストによって彼らアスリートの代謝反応を特徴づけることだ」とヴォレク教授は述べています。「これは、長い間、低炭水化物&脂肪適応食をしているアスリートを調査した初めての試みだ」

2日間にわたって、アスリートは短時間で高強度のワークアウト中のピーク時脂肪燃焼量、そして長時間エクササイズ時の代謝特性を見るテストを受けました。
1日目には、トレッドミルでのランニングを行い、最大酸素消費量およびピーク時の体脂肪燃焼率を計測しました。2日目には、最大酸素容量を全員同じ64パーセントの強度にして、3時間のトレッドミルランニングを行いました。テスト中、アスリートは水は飲みましたが栄養分は補給しませんでした。ランニングの前は、アスリートはそれぞれ340カロリーの低炭水化物、あるいは高炭水化物の栄養シェイクを飲みました。

耐久ランニングの間、両方のグループは、自覚的運動強度やカロリー消費率、酸素消費量において特に違いはありませんでした。しかし、長時間運動を行っている間の体脂肪燃焼率は、低炭水化物グループの方はおよそ2倍の燃焼率を示しました。エクササイズ中の体脂肪消費の平均値はそれぞれ、低炭水化物グループでは88パーセント、高炭水化物グループでは56パーセントでした。

「低炭水化物食グループのアスリートに見られた効果は、遺伝やトレーニングによるものを超えている」とヴォレク教授は述べています。「高炭水化物食のランナーはとても健康で、脂肪燃焼力も、これまでの標準からいうと非常に優れている。しかし、彼らの脂肪燃焼のピークは、低炭水化物食の持久力アスリートと比べると、半分以下である。これは、人間の脂肪燃焼能力を、我々がはるかに過小評価していたということだ。人間には、炭水化物を制限するだけで、取り出すことのできる予備能力がたくさんある」

「これまで低炭水化物食は、草の根運動にすぎなかった。アスリートはいわば自分の判断で穀類を食べないようにし、大きな成果を収めていたのだ。私が考えるに、これは主に極度の持久力が要求されるアスリートたちの間で始まったもので、彼ら自身大きな効果を認識したからであろう。しかし、他にも様々な競技やチームスポーツで戦っている多くのアスリートたちも、炭水化物の制限を試みている。」

その他の主な知見:
炭水化物をほとんど摂取していないのに、体脂肪燃焼率の高いアスリートたちの筋グリコーゲン値(安静時に炭水化物が貯蔵された形)は通常レベルである。低炭水化物食のアスリートはさらに、長距離のランニングの間、高炭水化物食のランナーと比べてほぼ同じレベルのグリコーゲンを分解し、回復期には同量のグリコーゲンを筋肉内で合成した。

「これはまったく予想していなかった結果である。しかし、なぜこの結果になったのかについて、いくつか斬新なアイデアが考えられる。我々ができるのは、背後にあるメカニズムを推測することだけだ」とヴォレクは話している。

筋グリコーゲンは、アスリートにとっての必須エネルギー源として1960年代に発見されました。結果、その後数十年にわたって、強度のエクササイズ時のエネルギー補給源として、炭水化物の多い食事が推奨されることになりました。しかしヴォレク教授は、人体には、食事から炭水化物が制限された場合でもグリコーゲン値を保つすぐれたシステムが備わっていると述べています。

「脂肪あるいはケトンに適応する」という設計図は我々の遺伝情報の中に組み込まれているが、炭水化物を主食とする伝統的で「健康的な」食事生活が、この代替の代謝システムが働くのを妨げている。炭水化物を制限すると、プログラムが再起動して多くのアスリートの健康とパフォーマンスが改善される」とヴォレク教授は述べています。

出典:
Materials provided by Ohio State University.Original written by Emily Caldwell.

参考文献:
Jeff S. Volek, Daniel J. Freidenreich, Catherine Saenz, Laura J. Kunces, Brent C. Creighton, Jenna M. Bartley, Patrick M. Davitt, Colleen X. Munoz, Jeffrey M. Anderson, Carl M. Maresh, Elaine C. Lee, Mark D. Schuenke, Giselle Aerni, William J. Kraemer, Stephen D. Phinney.Metabolic characteristics of keto-adapted ultra-endurance runners.Metabolism, 2015; DOI:10.1016/j.metabol.2015.10.028

注)これらの健康情報および教育メッセージはチョイスニュートリションが翻訳しております。記事の掲載目的は健康、栄養、トレーニングなどに関する情報の提供と共有にあり、個人の健康状態にアドバイスを与えるためのものではございません。食事法、トレーニング法、その他の健康管理法につきましてはそれぞれの責任において実行されますことをお願い申し上げます。また、体に違和感や不調があるときには医療機関へのご相談をおすすめいたします。なお、記事の内容に関するお問い合わせにはお応えしておりませんのでご了承ください。